「信号」
次、青になったら渡ろう。
青なら車も止まるし。
次、青になったら渡ろう。
この信号が青になったの、見たこと無いけど。
私が蓮と初めて出会ったのは数ヶ月前。
バイトに遅刻しそうで、急いでチャリこいでたのに、
バイト先の飲食店の目の前の信号で足止めを喰らった。
「ここの信号、なかなか変わんないんだもん。ついてないなぁ。」
そんな事を考えながら、無意識にバイト先の店に目をやった。
その時、店のイチオシ商品の桃まんを、美味しそうに食む男を見つけた。
バイト中にそんな光景はよく目にするし、珍しくとも何とも無い。
けど、何かが引っ掛かって、目が離せなかった。
その理由は今でも解らなくて。
そして、信号が青になった時に鳴るブザーで我にかえった。
急いで信号を渡ってお店に入って、着替えてからすぐあの男がいた席を見に行った。
「精一杯急いだんだけどなぁ。」
私が見たときには、もうあの男はいなかった。
「青に変わって帰ったか・・。」
それから何日待っても来る気配が無かったから、
また会えるなんて事、半分諦めてた。
あの日初めて見たから常連さんではないし。
すごく何かが引っ掛かって気持ち悪かったけど、
住所どころか、名前も知らないんじゃ仕方ない。
そして数ヶ月過ぎた今日。
キセキが起きた。
「いらっしゃいま・・せ・・・・・!」
店の入り口にまたあの男の姿があった。
私のバイト時間にくるなんて本当に偶然で、
ガラにも無く、ドキドキしてた。
「今日は青に変わって帰っちゃう前に、名前くらい聞こう・・っ」
そう思ってメニューを片手に、少し足早に男の席に行った。
早く、あの気持ち悪い引っ掛かりの原因を突き止めたかったから。
「ごっご注文はぉを決まりですか?」
ぅわっ自分緊張しすぎ・・っていうか何声裏がえってんの・・・ι
すると男は私の方に初めて顔を向け、初めて目が合った。
間近で目が合ったからか、さっきよりドキドキしてる・・・・・
男だけど、綺麗な顔立ち・・・
「この店はメニューもよこさず注文を取りに来るのか。」
男は厭味たっぷりに言って、顔を背けた。
「ぅあっごめんなさい!ど、どうぞ・・メニューです。」
初歩中の初歩ミスに顔を真っ赤にしてメニューを渡した。
が、男はメニューを受け取らず、不機嫌そうに言った。
「ふんっまぁいい。注文する品は決まってるからな。
桃まんを3つだ。」
なら言うなよ・・とか思ったけど、こっちのミスだし、お客様なのでここは押さえて。
「はい、かしこまりました。」
そして足早に厨房に戻った。
まるで逃げるかのように。
なんでこんなに緊張してるのか。
なんでこんなに顔が熱いのか。
謎は深まるばかりで・・・考えても答えは見つからなくて。
「声、カッコ良かったな・・・・・・」
そんなことを呟いたからか、尚更ドキドキして体中熱くなって。
これってまさか・・・・・───────
「ちゃーん、桃まん3つ出来たから運んでー」
「あ、はーい!!」
厨房からコール。
やっぱ私が持っていくんだ・・・どうしよう。
って逃げられないケド。
「ぉ、お待ちどうさまデス。」
仕方無しに男の元へ運んだ。
やっぱりドキドキはおさまらず、寧ろ早くなって、
言葉もカタコトになってしまった。
・・・・・・・・何故か男がジッと私を見ている。
視線が痛い・・・。
きっと変な女って思われてるんだろうなぁ・・
「・・・変わった女だな。」
大当たり。(泣)
「でも、いい名を授かったな、。」
「えっ?!」
突然の事で何が何だか・・・って、名札かぁ。
うちの店はフルネームの名札を付ける規則だから。
・・・名前誉められたの、初めて。
なんかちょっと・・嬉しいかも。
「ありがと・・ございます。」
私は思いっきり照れつつ礼を言った。
───────青ニ変ワッチャウ前ニ。
そうだ。
名前、私も知りたい。
「あ、あの!お名前を、私にも教えて下さい。・・よかったら、ですけど。」
私は勇気を出して男に名前を尋ねた。
男は桃まんを食もうと大口を開けていた時に、思っても無い質問に動きを止めた。
その時のマヌケ面といったら(笑)
「・・蓮。」
「え?」
「道 蓮だ。」
そう言った男の気高い様と、蓮と言う名がすごく合ってて、
考える間もなく私はこう、口走っていた。
「いい、名前ですね。」
それからと言うもの、蓮は度々店に顔を出すようになった。
会えば会うほど中は深まり、ついには休日2人で出かけるまでにもなった。
そして私は歩き出した。
親友という信号の向こう側に行く為に。
NEXT→
→黒蝶
↑1日1票お願いしますvv↑