「DEEP + PAIN 」
私が母と呼ぶべき人物の手が、高く振り上げられた時
私は固く瞳を閉じる。
次の瞬間に与えられる衝撃に耐えるためだ。
振り上げられた手は、振り下すのみだから。
その行為は幾度となく繰り返され、
途中意識を手放しそうになる。
“その人”はソレを楽しんでいるのだ。
充分楽しんだ後は、たいてい煙草を吸う。
そして倒れている私を見下し、薄ら笑いを浮かべる。
父親が他の女と家を出てから約7ヶ月、
こういった行為がほぼ毎日続いた。
でも私は1度も泣くことは無かった。
その時の私には、その人が全てだったから。
逆らう事は『死』を意味するから。
だから生きるために・・・・・
生きていつか復讐をする為に。
しかしある日、母親が出掛けたきり帰ってこなくなった。
帰ってこなくなって3日くらいは
「またどこかで遊んでいるんだろう」
そんな事を考えていたが、1週間が過ぎ私はやっと気がついた。
“捨テラレタ”
娘としてはとっくのとうに捨てられていた。
そして遂に『玩具』としても、飽きられ捨てられたのだ。
私はその時、初めて涙を流した。
当時6歳の餓鬼が1人であの人を探すなんて事は、無謀すぎた。
もとより、そんな体力は既に無かった。
だから待ち続けた。
布団に包まり丸くなり、じっと・・待ち続けた。
悪魔ノヨウナアノ女ヲ。
捨てられてからどれ位過ぎただろうか。
意識がはっきりしなくなってきて、目を開けているのも辛くなった。
身体は痩せ細り、骨が浮き出ていた。
もう死ぬかどうかという時、マンションの大家が鍵を開け、
異臭が漂うこの部屋に入ってきた。
入るなり大家は絶句し、私を両手で抱き寄せた。
あぁ、私はやっとココから出られるんだ。
あの女を待たなくてもいいんだ・・・・・・・・・。
私は大家の腕の中で、深い眠りについた。
忘れない。
あの女の顔、声、手、煙草、きつい香水・・・・・・・あの傷み。
私が目を覚ましたのは病院のベットの上。
周りには誰もいなかった。
今まで生活していた部屋とは正反対に綺麗で、白かった。
ソレが嫌だった。
すると病室のドアが開き、看護士が入ってきた。
何か色々言っていたけど答えなかった。
ただ前だけを見て、ポツリと零すように言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生き延びた。」
それはあの女への復讐心を更に強くした。
あれから月日は流れ、私は親戚の家で生活していた。
この親戚で4件目になる。
私は親戚間をたらい回しにされていたのだ。
そしてまた家が変わる事になった。
それが草摩家。
名乗りを上げたのは「紫呉」という男。
私と草摩家は親戚と言っても、かなり遠い。
寧ろ他人に近い。
なのに何故私なんかを引き取ると言うのか。
前に世話になっていた家の者の話によると、
その男の家には既に、草摩家以外の者が住んでいて
1人でも2人でも変わらないと言うらしい。
世の中には変わった奴も居るものだ。
そう思ったが、そんなことは別にどうでもよかった。
生きて、いけるのなら。
NEXT→
→黒蝶
↑1日1票お願いしますvv↑