「体温」









イーストシティーの外れにある病院の一室。
広くもなく、狭くもない個室。
そこにはいた。

3日ほど前から入院し始めたのだが、
理由はある感染病にかかってしまったからだ。



「退屈ぅ・・・・・・。」



は熱のある頭を抑えぼやいていた。
看護士さんには寝てなさい、と言われたが
身体が熱くて寝るに寝られず、上半身をベッドから起こしていた。


すると、コンコンと2回病室のドアを叩く音がして、
はとっさにベッドにもぐり込む。

ドアはが返事をする前に開けられた。
同時に声質の似た2つの声が重なり、病室に響いた。




「「っ?!」」




声の主はエルリック兄弟。
は声で誰か解ったらしく、ベッドから飛び起きた。




「エドッ、アルッ!・・・・・・・っ」




あんまり勢いよく起き上がったせいか、
再びベッドに倒れ込む。




「あっバカ!無理すんなよ!」





エドが心配そうに駆け寄り、アルもドアを静かに閉めてから駆け寄る。

はイーストシティーの少尉を務めている為、
エルリック兄弟とは何度も会ったことがあり、歳も近かったせいかとても仲が良かった。

そしてタイミング良くに会いにイーストシティーに立寄ったところ、
入院中だと聞き飛んで来たのだった。




「お見舞い・・来てくれたんだ。」




がゆっくり身体を起こしながら言った。
それを支えながらエドとアルが頷く。




「そうだ、お花買ってきたんだ!の好きな。」




アルが思い出したように、に手渡す。
は満面の笑みを浮かべ、零すように「キレイ」と言った。

ソレを見たエドとアルは、ホッとしたのかにつられたのか、
自然と笑顔になった。





「ありがとう。・・・でもこの部屋、花瓶ないんだ・・。」




申し訳無さそうに言うに、エドはニッと笑って見せた。




「オレを誰だと思ってんだよ?」




そう言うや否や、エドは両手をパンッと合わせ、
病院の壁からキレイなデザインの花瓶を錬成した。




「相変わらずスゴイね、エド。」




が小さく拍手をしながら言った。




「へへっじゃぁオレ、水入れてくっから。」



エドはそう言うと、小走りで病室を出て行った。
それを見送ったは小声でアルに話し掛けた。




「ね、エドさ、もしかして背伸びた?」

「えー?そうかな・・・気のせいじゃない?」




首を傾げて答えたアルの頭に、一瞬の指が触れる。




「あ・・アル、冷たくて気持ちいー・・・。」



そう言ってアルの顔に両手を添える
そんなに、アルは不安そうに問う。



「熱は何度くらいあるの?」

「んー・・・8度ちょっと?前よりは下がったよ。」



へらっと笑って軽く言うが、の平熱は5度台なのに、
3度も高い熱が平気なはずがない。

アルはココに来たことを、少し後悔した。




「そんな事より、抱きついていい?」

「えっえっ?!い、いいけど・・・・/////」




はニコッと笑い、アルに抱きついた。
それは熱で身体が火照っていて、アルに触っていると気持ち良いから。
と、理由ははっきりしていた。
アルも勿論解っていた。
しかし、容姿端麗なの、白く細い腕に抱かれると、
やはり緊張してしまう。










「・・・・人間は不便。」









「え?」




がアルの胸に顔を埋めながら、ボソッと言った。






「人間は弱すぎるのよ。肉体的にも・・精神的にも。
こうして病気にもなっちゃうし。本当、嫌になる・・・・。」





そう言うと、深いため息をつく
アルは少し返答に迷ったが、の頭を優しく撫でながら言った。













「でも・・・人間には体温があるじゃない。」











「・・・・・・・・・・・・・。」





「触れ合って感じる体温は、言葉なんかよりもっと、ずっと大切だと思う。
・・・・・・ボクは全身が鎧だから、尚更そう思うよ。」





そう言ったアルの声が少し、震えていた気がして、
は抱きしめていた手に力を込めた。





「・・ごめん、なさい。
私、そんなつもりで言ったんじゃ・・・・・。」



「うん、大丈夫。解ってるから。」




アルが優しい言葉を掛ける。
そしてに笑顔が戻った。




「今日はアルが来てくれて本当良かった。
1人で居ると、どうしてもマイナスに考えがちだからさ。」




苦笑いを浮かべながらは続けた。










「・・・・・・でも、エドには来てほしくなかった・・かな。」











ガシャン・・・ッ






の言葉と同時に大きな音が響いた。
音のした病室のドアの方に目を向けるとアル。

ドアは半分開かれ、そこには俯いたエドが立っていて、
足元に先程エドが錬成した、キレイな花瓶が粉々になっていた。




「・・・・・かったな。」



「エド・・・?」







「悪かったなっ俺なんかが来ちまってよっ!」






「っ!!エド待っ・・・・」






エドはとアルの話を聞いてしまったらしく、
走って病室を出て行ってしまった。




「兄さん・・僕たちの話を聞いて・・・?」




「絶対に勘違いしてる、あのバカッ・・・・」




は頭を抱え、深いため息をついた。




「でもさ、なんでボクは良くって兄さんは駄目なの?」




アルもの言葉を理解できなかったらしく、
純粋に疑問をぶつけてくる。
その姿を見て、は答えるべきかどうか迷った。






もしかしたら、アルを傷つけてしまうかも知れないから。






「・・少し、酷かもしれない。」





は俯きながら言った。
アルは黙って頷いた。





「私の病気が、インフルエンザって言う感染病だから。
アルには感染らなくても、エドには感染るでしょ。」



「・・・・ぷ。あはは、なんだそんな事かぁ。
そんなの全然酷じゃ・・・・・」





アルは言葉を区切ると、少し考えてから続けた。





「やっぱりボク、かなり傷ついちゃった!
だから1つだけお願いきいてくれる?」



「お、お願い?」







「そ、等価交換vv」











───────・・一方エドは。




「くっそぉ、なんだよ。オレが嫌なら先にそう言えばいいじゃねぇか・・・・。
オレ1人で花瓶なんか錬成してバッカみてぇ。」




1人でブツブツ言いながら病院の中庭に出ていた。
今日は天気が良く、多くの患者も散歩をしている。
とても広い中庭だ。

エドは近くにベンチを見つけ、ソコに腰掛けた。




「アルと2人でヒソヒソ話してよ、デキてんのかよ。
・・・・・・そう言えば抱き合ってたな。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デキてんの?」









「デキてません。」








エドの独り言に後ろからつっこみが入る。

その声を聞いてエドはとっさに振り返る。






っ?!」






驚いているエドに対して、は少し怒っている様子。
は黙ったままエドの隣に座った。

しかしすぐに話そうとはせず正面を向いたままだ。
痺れを切らしたエドが口を開く。




「なぁ、なんで追ってきたんだよ。」



しばらくは答えなかったが、
ようやくエドの方を見て言った。







「・・・・・アルに頼まれたから。」




「・・・・・っ!」






「アルに、等価交換だって。」







『等価交換』と聞いて、眉をピクッと動かすエド。






「等価交換って・・何したんだよ。」





「実は・・・・。」






と、一部始終をは話した。
エドは黙ってそれを聞いていた。







「・・・・で、等価交換で兄さんを追ってくれって。
誰よりも私を心配してたのは・・・兄さんだから・・・・って。」




「なっ、アルの奴・・・・・・//////」




「それ・・本当?」







両者赤面状態。

少しの沈黙。


先に沈黙を破ったのはエドだった。







「本当だよ。だから悔しかったんだ。
アルと抱き合ってるを見ただけでもショックだってのに、あのセリフだもんな。」



「ア、ハハハ・・・ごめん。」





今度は2人して苦笑いをしている。
でも先程とは全然違う、和やかな雰囲気。




「良かったよ、ちゃんと意味が解って。
オレの事気づかってくれてたんだ・・・・・ってオイ?!?!」




は高熱なのにも関わらず外を出歩いた為、
更に熱が上がってしまったようだ。
そして誤解も解けて、緊張の糸も切れたんだろう。
倒れかけたところをエドが支える。




「ったく、だから無理すんなって言ってんのに・・・。」




を支えた手をそのまま自分の方に抱き寄せる。




「っ・・エド?」



・・・好きだ。だからっ頼っても、いいから・・無理だけはすんな。」





の耳元で囁くエド。

エドが今どんな顔をしているのかは解らなかったが、
自分と同じくらい熱くなっている体温で、だいたい解った。










アルが言ってた通り、体温は大切だ。









「・・・・・・・私も、好き。」



その後何度か重ねられた唇からも、
やっぱり体温は感じられて。




『愛してる』の言葉よりもずっと嬉しかった。










「・・・・あ。」

「?どうした、。」

「キスなんてしてたら、エドにインフルエンザ感染っちゃうよ。」

「んー・・、のウイルスなら喜んでもらってやるよv」

「バカ兄。」

「ぅわっアル?!!何時からそこに・・・ιιι」








***fin***




初の鋼錬夢。
当初の予定はロイだったのに、エルリック兄弟に譲りました。
主人公だしねv
ロイの方が作品数増えると思うし♪(笑)
アルがいつから見ていたかは秘密☆

ご感想お待ちしておりますvv
→黒蝶

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