なんだかんだいって、貴方に敵わないから。
いつも少しだけ、それが悔しかったんだ。
「火遊び」
いつも居るべき場所に、あのデスクに、大佐はいなかった。
だから、そのまま中尉に仕事を押し付けられた。
中尉の仕事ならともかく…今はいない、大佐の仕事を。
朝のとき見かけた、あの妙な清々しい大佐の表情の理由は
この書類の山だったのだ。逃避したくもなる、この量じゃ。
…だからって、本当に逃げていい訳がないじゃ無いですか!
それ以前に大佐の仕事が少尉の私に押し付けられるのか
そんなことをしてもいいのか、わからなかったけれど。
それは中尉の笑顔の一言で無理矢理わからせられた。
怒られるのは大佐だから、と。自分達は関係ないから、と。
確かに書類に不備があっても、表向きの担当者は大佐だ。
別に私が怒られるわけじゃない。だから大丈夫だ、と。
そういう問題じゃない気もしたけれど、中尉には逆らえない。
私の記憶によると、この書類は緊急だった気がしなくもない。
溜息をつき書類を受け取ると、彼女は満足そうに微笑んだ。
こうして私は今、大量の書類に囲まれている。
正直言うと、泣きたくなった。信じられないこの書類の量。
いつもの勤務時間では全然時間が足りなかった。
イコール、今日は残業決定。…本気で泣こうと思った。
「大佐のばかーむのうーあほーさぼりまー」
誰も居なくなった部屋で、頬杖をつきながら書類に目を通す。
口ではひたすらに大佐への思いつく限りの悪態をつきながら。
もう緊急だろうがなんだろうが、どうでもよくなってきた。
元々大佐が逃げた時点で間に合わないことは決定したのだ。
「………あほらし。もう帰ろ………」
もう一度溜息をついて、席を立ち上がる。
書類の束…というより山は、あと3分の1残っている。
3分の2やっただけでも褒めて欲しいと正直思う。
…そういや、今日大佐誰かとデートだって言ってたな…
なんか腹立ってきた。今度奢ってもらおう。てか奢らせよ。
私は必死に仕事してるのに、今頃大佐はデートかぁ…
怒りが込み上げてくるのを感じて、デスクを思い切り叩いた。
はっと気づくと、書類の山は………崩れるところだった。
どうにかなんとかなったので、息を吐くとドアを閉めた。
溜息をつくと幸せが逃げていくと言うのならば
今日で私はどれだけ幸せが逃げていったというのだろう。
「明日どうなっても私は知らないんだから」
「た・い・さ」
「なんだい?今日も元気だね」
「これのどこがそんな風に見えるんですか、このサボり魔が。」
「何を言ってるんだ?私がいつどこでなにをサボったって?」
「……………中尉ー」
「、私が悪かった。なんでもするからそれはやめてくれ」
勝った!
私は久しぶりの勝利を噛み締めていた。
最近負けっぱなしだったから、尚更。
「大佐、なんでもするって言いましたよね?」
「………そんなことは言ってないぞ?」
満面の笑顔で言った言葉に、しまった!という表情を作る。
もうそんなことをしてもこんなこと言っても
言ってしまったことは、遅いんですよ大佐?
「いい大人が嘘ついたり誤魔化しちゃいけませんよ」
「私は給料日前なんだが………」
「それは私も同じです。でもデート行くお金があるんだから…平気ですよね?」
「わかった、わかったから。…全くには敵わないな」
「じゃあとりあえずお昼休み、楽しみにしてますねー」
思いっきり嬉しそうな顔を作った。
これくらいしないと、昨日の私は報われない。
深い溜息が聞こえたけど、私には聞こえない。
それから数分後、中尉に怒っている声が聞こえた。
ここにいた全員がそれに聞こえないフリをした。
といっても、曹長はおろおろしていたみたいだけど。
触らぬ神に祟りなし、怒れる中尉に近寄るべからず。
そんな言葉を言い出したのは一体誰だったのだろう?
怒っていても、綺麗な声をBGMに新しい仕事に手を伸ばした。
そして思ったのは、大佐の昼休みが潰れないかということ。
「お疲れ様です。終わりそうですか?」
「なんとかするよ。約束したからね」
「良いですよ別に、無理しなくても。半分やつあたりですし」
「それでも約束は約束だろう?私は約束は守る男だよ」
「…じゃあ仕事の約束もちゃんと守ってくださいよ」
視線を逸らして気まずそうにソッポを向く。
怒られて、自分は悪くないって拗ねてる子供みたい。
でもこの人は子供じゃないだけ、性質が悪いのよね。
「……………それはそれ、これはこれだ」
「…大佐ってたまに凄い子供っぽいですよね」
「そんなことはないと思うんだが」
それっきり会話が無くなり、持ってきたコーヒーを啜った。
大佐のブラックとは違って、砂糖もミルクも入っている。
こうでもしなければ、コーヒーは未だに飲めないのだ。
この前誰かにそれはコーヒーと言わないって怒られたっけ。
そんなことを思って、窓の外を眺める。湯気で目の前が曇った。
いつの間にか、隣にいた大佐もコーヒーに手を伸ばしていた。
「終わります?」
「…なんとかしよう」
「良いですよ。中尉に怒られますよ?」
「だが………」
「今度の日曜で良いですよ」
それから思い出したように付け足した。
少し意地悪するみたいに笑ってみながら。
「大佐がデート入れてなければ、ですが」
「…大丈夫だよ。じゃあ日曜でいいかな?」
「………はい」
「じゃあ日曜はとデートかな」
「何言ってるんですか、大佐………」
少し考えてから、何か思いついたように笑って。
それに私は呆れた顔をして、貴方のことを呼ぶ。
なんだかんだいって、この時間が楽しいと思えるのは。
どれだけ意地悪をされても、嫌いになることができないのは。
日曜日をカレンダーにわざわざ印までつけてしまうのは。
だから、なんだかんだいって敵うことができないのを
悔しいけれど、それでもいいやと思ってしまえるのは
全部、そういうことなんだよ。きっと。
「逃げたぶん、ちゃんと責任とってくださいね」
だから私は彼に遊ばれて、彼は私に遊ばれる。
それはきっと、当分の間はこのまま続いていくんだ。
−Fin−
黒蝶ちゃんと交換小説(でいいのかな?)の大佐夢ー
特にリクされなかったので、特に甘くないです。日常話。
なんでヒロインは鋼キャラにたかるんだろ…?謎です。
カッコイイ大佐じゃなくてごめん。大佐やっぱり難しい…
カナタちゃん、どうもありがとぅvv
大佐可愛いし。
そんな大佐も大好きだーっvv
→黒蝶
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