「好きだから」





「かったりぃ〜・・・授業なんかやってらんねーよ。」


草摩 夾は屋上で大あくびをした。
ただいま数学の授業の時間。立派なサボリである。

仰向けに寝転がり、両手を頭の下に置いて枕代わりにする。
雲ひとつ無い青空を見上げて、ウトウトとまどろんでいた。

「今日もあいつ・・・来るんだろうな・・・・・・」



───────同じ頃、教室では。

「ね、ね、透ちゃん。」


は小声で、前の席の透に話し掛けた。


「何ですかさん。」


笑顔で振り返る透。
は自分の隣の席を指差して言った。


「夾がさっきの休み時間から、帰ってこないんだけどさ・・・」


すると透は心配ないですよ、と笑った。


「きっとおサボリでしょう!」

「本田!私語は慎め!それにサボリとはなんだ、ちょっと立ちなさい!」


(透ちゃん・・・声おっきいよぉ〜・・・)


授業中だというのに、ついうっかり声のボリュームを上げてしまった。
相変わらずどこか抜けている・・・


(・・・ま、そこが可愛いんだけどね。)


は手を挙げて立ち上がった。


「先生、ちょっと気分が悪いんで、保健室に行ってきます。」


そう言うと返事も聞かずに、スタスタと廊下に出た。
の向かう先は、もちろん保健室なんかじゃなくて。


(夾がサボると言えば・・・・・・・・)




───────変わって、場所は屋上。

夾はまだ空を眺め、まどろみの中にいた。
不意に片手を伸ばし、何かを掴むようなしぐさをした。


「クソ鼠・・・いつかブッ倒してやる・・・・・・・・・ッ」


握る手に力が入る。


「うんうん。早く実現するといいね〜。」

「おぅ、だから授業なんて・・・・・・ってうぉぁっ!!!!!!」


突然の来客に、夾は驚いて飛び起きた。


「あははっ。簡単にバック取られるなんてさ、所業足りないんじゃない?」

「なんだかよ・・・うるせぇー驚かすな!」

「“何だ”とは何よぉ。・・・ま、でもそんな夾も好きだけどね〜」


あはは〜と爽やかに笑うに、夾は顔を赤くしてそっぽを向いた。


「でもさぁ、授業サボるのは悪いんじゃない?今数学だよ?」

「いいんだよ。授業なんてやってらんねーし・・・」

「ま、いつもの事ですけどねっ」

「まぁな・・・・・・・ってお前だっていつも一緒になってサボってんじゃねーか!」


夾が気付いたように言うと、は あちゃ〜バレたか、と可愛く照れた。
この二人がサボるのは、いつも大体ごく当たり前のこと。
1日に1時間は必ずサボる。

サボっている時は決まって屋上で、他愛も無い話をしているのだ。
が告白して、付き合い始めたのも『屋上サボリ』がきっかけだ。


「今日はすっごくいい天気だよね〜」


雲ひとつ無い青空を眺めて、が言った。


「あぁ、そうだよな。」


夾はその横で、また仰向けに寝転がる。
ふと、が あ。と声を漏らし、パンと両手を叩いた。
そして夾の方を向き、何か新しい遊びでも見つけた子供のような笑顔を見せた。


「ね、夾、外に遊びに行こうよ!」

「はぁっ!?」


突然夾は驚きの声を上げる。


・・・お前何考えてるんだよ・・・」

「だってさぁ、今日こんなにいい天気なんだよ?」

「見りゃわかる。」


は駄々をこねるように、寝転がっている夾の肩を揺さぶった。


「ねー行こうよぉ〜。どうせ授業あと2時間だけだしさ〜」

「あーうるせぇなぁ・・・・・・わかった、わかったよ。行くって!」

「やったぁ!さっすが夾ぉ〜」


は満面の笑みで喜んだ。
そんな彼女を、夾は優しい笑みで見つめていた。
・・・彼女自身には見えていなかったが。





「先生たちにバレなくってよかったねっ」

「お前がトロくってバレそうにはなったがな。」

「何それぇー!」


そんなやり取りをしながら二人は歩いていた。
いつからだったか、仲良く手を繋いで。
は嬉しそうなのだが、夾は顔を真っ赤にして、決してと視線を合わさない。
まぁ要するに嬉しいのだろう。


道なりに歩いていくと、人気のない公園に着いた。
二人は当然、制服のままだったので何かと目立ったが、やっと落ち着けそうだ。

近くのベンチに腰を下ろす。
時折吹いてくる爽やかな風が、二人に髪をなびかせた。


「あぁ〜なんかいい風・・・・・・」


目を閉じて風を感じるを見つめ、夾は鼓動が速くなるのを感じた。


「・・・・・・・・・・」

「ん?なぁに、夾?」



そのあどけなさ。

その無邪気さ。

その可愛さが。

夾の理性を欠けていくには充分過ぎて。

思わず、の方頬に手をかけた。


「・・・え・・・夾・・・?」


夾の触れたところから、の顔が赤くなっていく。
の鼓動も、速くなっていった。
だんだんと、夾の顔が近づいてくる。


「・・・可愛いな・・・・・」


耳元で囁くと、真っ赤になったがピクンと跳ねた。
夾はゆっくりその唇を重ねた。


少し、不器用で。ぎこちなくて。

でも、優しくて。温かくて。

それは軽く触れて、スグ離れていったけど。
充分に伝わった。に、夾の気持ちは。


「えへへ・・・夾、ありがと。」

「う、うるせー!もうしねぇからなっ!!!!!!!!(何やってんだ俺は・・・)」


二人して顔を真っ赤にしながら、爽やかな夏風に吹かれていた。


何も知らなくても。好きだから。


気持ちが伝われば、それだけでいい。



───────でも、ね。もう1回・・・───────



「夾ぉー」


「あぁ?・・・・・・・・ッ!?」


それも軽く触れて、スグ離れていったけど。・・・だけど。


「夾、大好き。」

「・・・・・・・・・・俺も・・・」



気持ちが伝われば、それだけでいい。


何も知らなくても。




───────好きだから。




END








風羅に頂いた、夾君ドリでしたvv
夾君めちゃくちゃ可愛いぃ〜vvv
やっぱ上手いですよね、風羅はっ!!
素晴らしいです♪また今度何か書いてもらおう。(勝手に?!)

→黒蝶

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