「黙ってろ」
部屋に居るのは二人ばかり。
椅子に深く座り、煙草をふかしながら新聞を読んでいる三蔵。
ソファに寝そべってじっと彼を見つめる。
先程から二人の体勢・沈黙が変わることがない。
しかし。
「・・・・・・・・・・なんなんだ。さっきから。」
先に沈黙を破ったのは三蔵だった。
視線はそのままで、口だけを動かす。
それでもは動かない。
じっと三蔵を見つめて。
「・・・質問に答えろ。」
「・・・・・・・・・。」
沈黙、沈黙。そしてまた沈黙。
「・・・・・・・・・。」
は口を開こうとしない。
そしてとうとう三蔵が痺れを切らした。
「何見てやがるッ!?」
ガタンッと椅子から立ち上がった。
いつもはしばらく黙っているのだが、今日の彼は機嫌が悪いらしい。
あまりの勢いに、木製の椅子が後ろに倒れる。
は立ち上がった三蔵の顔にゆっくり視線を移すと、ソファに座りなおした。
「・・・・・・・だって。三蔵が『黙ってろ』って言ったんじゃない。」
「そうじゃねぇ!何で俺のことジーッと見てんだよ!?うざってェ」
「・・・そっか・・・」
そういうと、は静かに外へ出た。
三蔵は止めようか戸惑ったが、タイミングを逃してしまって舌打ちをした。
椅子を直してまた新聞を読み始める。
・・・だが当然のことながら、記事には集中できない。
が気になって。気になって。
雨なんか降ってこなければいいが・・・・・・・
そんな彼の思いとは裏腹に、今にも降りだしそうな雲行き。
悪い予感というものはよく当たるものだ。
気がつくと、窓に滴る水滴は激しくなっていった。
「クソッ・・・あンのバカ・・・・・・ッ!!!」
三蔵は急いで傘を片手に外へ飛び出した。
家の周辺をくまなく探したが、やはり何処にもいない。
ならば近くの林へ・・・?
さらに強くなった雨足に怪訝な顔をしながら、林へと足を運ぶ。
しばらく進むと、ぽっかりと空いた空き地のような所に出た。
そしてその真ん中に、が立っていた。
ずぶ濡れで。上を向いて。下唇をぎゅっと噛んで。
「っ!」
三蔵はそう叫んで、の元へ駆けていく。
ゆっくりとがこちらを向いた。
濡れた前髪が邪魔で、表情がよく分からない。
「三蔵ぉ・・・」
少しだけ震える声。それよりもっと震えている身体。
三蔵はさしていた傘の中にを入れると、そっと肩に手をまわした。
「さんぞ・・・濡れるよ・・・・・・?」
「お前の方が濡れてるじゃねーか。」
そのまま家へと足を進めていく。
「・・・俺が来なかったらずっとここに居るつもりだったのか?」
家の近くまできたとき、三蔵が口を開いた。
は三蔵の肩にもたれていた頭を起こすと、こくりと頷く。
「何故だ。」
「・・・だって三蔵が『うざってェ』って言ったから・・・・・・・」
そういうの顔は無表情だったけど。
よく見れば瞳は濡れていた。・・・雨のせいだけじゃない。
「なのに、その『うざってェ』私を連れ戻すなんて・・・・・・・・・・・・・変な三蔵・・・だ、ね」
は顔を背けた。
声がもっと震えている。身体も・・・小刻みに。
三蔵はの肩にかける手の力を強くして、足を速めた。
「おい、これで拭け。」
家に着くと、三蔵はそう言ってタオルを渡す。
は黙って受け取り、髪を拭き始めた。
すると少し前かがみになって拭いていたの身体が、宙に浮く。
気づくと、三蔵がお姫様抱っこしていた。
「さ・・・三蔵ッ!!!?」
「・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・無視。
優しくをベットの上に寝かせると、自分は彼女の上に覆い被さる。
甘い吐息がかかるくらいの距離まで顔を近づけ、低く囁く。
「・・・俺はジッと見られるのが嫌いなんだよ。でもは・・・嫌いじゃねェ。」
───────好きなんだ。
言葉に出すのは照れくさいから。
「ちょっ・・・三蔵、私まだ髪だって乾いてないし、服だって濡れたままだから冷たいし寒い・・・・・・・ッ」
照れと焦りで上ずった彼女の言葉を、三蔵は自分の唇で遮る。
「んん・・・・・・・ッはぁ・・・」
「俺が暖めてやるよ。・・・・・・・だから黙ってろ。」
不敵な笑みを浮かべて、開放したばかりの唇にまたキスを落とす。
それは、さっきのとは比べ物にならない程深く激しくて。
は途切れそうな意識の中で、必死に彼を抱き締めていた。
窓の外で降り注ぐ雨は、どうやら今日は止みそうにない・・・・・・・・・・
***END***
危うく裏に入りそうな作品ですι(笑)
いや、でも、文才ありますよねvv>風羅
本当にうらやましい限りです☆
→黒蝶
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