「着信拒否」
昼過ぎの氷帝学園。
今日は午前授業で、男子テニス部は1時間後から部活が始まる。
そんな時、は男テニの忍足を捜し、
廊下を行ったり来たりと、走り回っていた。
手には英語の教科書を持っている。
「?何してんの?」
不意に後ろから話しかけられ、
驚きながら振り返ると、そこにはラケットを持った向日が立っていた。
「あ、岳人か・・・。これから部活?」
「そうだけど、岳人かってなんだよ。『か』って!」
「あはは、ゴメン。」
はゴメンと言って両手を合わせ、向日は教科書に気付く。
そして教科書を指さしながら言った。
「ソレ、今日侑士に借りてたやつ?」
「うん。返したいんだけど見つからなくて。
もう部活行っちゃったのかな。心当たりある?」
向日は腕を組み数秒考えたが、首を横に振った。
「なんなら部活の時に返しとくけど?」
差し伸べられた手から、一歩引く。
苦笑いをしているが、どことなく顔が紅い。
向日もの気持ちに、薄々感づいていたため、手を引っ込めた。
俯きながらが言う。
「自分で・・返したい、から。」
「そっか。応援してるぜ!」
向日はの肩をポンッと叩き、部室の方へ走って行った。
自分の気持ちが向日にバレたと確信したの顔は、赤みを増していた。
何回か深呼吸をし、再び忍足を捜し始めた。
一方、忍足は。
すでに部室で着替えをしていた。
「あ!もう来てたのか。が侑士の事捜してたぜ?」
向日は部室のドアを開けたまま忍足に話しかける。
忍足に閉めるように促され中に入る。
「なぁ、着替え終わったら行ってやれば?
まだ時間あるし。」
「ええんよ。まだ会わへんの。」
何故か機嫌の良さそうな声で話す忍足。
向日は不審に思ったが、理由を聞こうとはしなかった。
機嫌が良くなる原因は99%ががらみの事だからだ。
本人がそれに気付いているかどうかは知らないが。
「でも、きっと侑士のこと捜し続けるぜ?
俺、言ってこようかな。」
「そないなことしたら意味ないやん。
俺を探し続けてるのが可愛いんやから。」
忍足が大真面目な顔で言う。
少し口端が上がっている。
向日は呆れた顔で軽くため息をついた。
「どうせ携帯も電源切ってるだろ?」
忍足はスッと携帯を取り出し、向日に画面を見せる。
どうやら電源を切っていない事の証明をしたかったようだ。
「切ってへんよ。着信拒否ってるけどな。」
「おいっ!」とつっこみを入れたそうな顔の向日を気にもせず、
忍足はテニスコートの方へ歩いていってしまった。
向日は心の底からを哀れみ、コートに出ていった。
そのころは未だに忍足を捜し回っていた。
完全に凹んだ顔をしている。
「やっぱりもう部活行っちゃったんだよね・・・。
電話にも出てくれないし・・っていうか、たぶん拒否られてる・・・」
小さく呟いて、顔が上げられなくなってしまった。
今にも泣きそうな、こんな顔。
誰にも見られたくない。
は制服の裾で目を乱暴に拭き取り、
昇降口に向かい始めた。
「本当は、今日渡したかったんだけど、な。」
教科書を握りしめ、は走り出した。
終始目を隠しながら。
は家に着くなり自室にこもり、
枕に顔を押しつけ、声を殺し泣き続けた。
“着信拒否”
自分とは話しもしたくないという彼の意志。
私は話がしたくて。
わざと教科書を忘れて。
隣でもないクラスの貴方に借りに行って。
私の気持ちはバレバレで。
隠すつもりもなかったけど。
きっと、うざったくなったのだろう。
「今日、言おうと思ってたんだけどな・・。」
気持ちを言葉にすることは勇気がいることで、
やっと決心できた。
でも、やっと決心したときには遅かった。
気づいてしまったから。
自分では駄目なのだと。
気が滅入っているため、マイナス思考から抜け出せない。
の泣き声も極僅かにしか聞こえない静かな部屋に、
携帯の着信音が響き渡った。
「っ!!この曲・・・侑士くん!」
やっと枕から顔を上げたの目に、
携帯のディスプレイに表示された、無機質な文字が目に入る。
「忍足 侑士」という文字。
もう2度と表示されることのないと思っていた文字。
解っていても消すことは出来なかった。
そんな彼から電話がかかってきた。
きっとかけ間違えているのだろう。
そう思わないと、自惚れてしまう。
一度深呼吸をして、通話ボタンを押す。
出来る限り元気な声で、いつも通りの声で。
せめて、彼の声を聞き終わるまで。
この電話が、切れるまで。
「もしもし?」
『俺やけど、今何処におるん?』
「え、家だけど・・なんで?」
『今日、教科書貸したやん?英語宿題出ててな。ないと困んねん。』
「!!うそ・・・・ご、ごめんなさいっ!
じゃ・・じゃぁ、今から学校行くから待っ・・」
『俺んち。』
「・・・・・え?」
『俺んちに届けにきいや。知っとるやろ?』
確かには忍足の家を知っていた。
以前、1度だけ向日と2人で遊びに行った事がある。
あの日の出来事、道、言葉。
忘れるわけがない。
「・・・・・・・・。」
『・・・忘れてもうた?』
「っ違う!ぁ・・あの、その・・・」
どう返事をしたらいいか解らない。
こんな事したら、彼を諦めるのに更に時間がかかってしまう。
今でも彼を、諦める自信なんて、ないのに。
『早よ来ぃや。待っとるで。』
プツッ・・・ツー ツー ツー
勝手に切られた。
どうする?
どうすればいい?
答えは出てた。
大急ぎで着替えて家を出る。
お母さんは夕ご飯の準備で気づいてない。
自転車を出して、教科書を籠に入れて、全力でこぐ。
全力でこいでいるから脈拍が早くなっているのだろうか。
彼を思って早くなっているのだろうか。
どうでもよかった。
そんなことは。
ただ彼に会いたい。
自転車を普通にこいで40分かかるか、かからないかの距離を約半分の時間で。
彼の家の前で自転車を止め、
降りたときに気が付く。
呼吸が苦しいこと。
激しい喉の渇きも。
おでこ全開なのも。
ある程度整えて、呼び鈴を鳴らすと、
待ち焦がれた時を迎える。
私服の彼は大人っぽくて、脈拍は更に早くなった。
このまま死んでしまいそう。
「いらっしゃい。待っとったで。」
そんな笑顔は反則だ。
着信拒否してたくせに。
・・・卑怯だ。
「なに突っ立ってんねん。はよこっち来ぃや。」
忍足はを玄関の前に促す。
しかしは動こうとはしない。
視線を外し、小さな声で呟く。
「・・・・んで?」
「?なんや。」
忍足にはだいたい察しが付いていた。
が、あえて知らないふり。
の泣きそうな顔こそが忍足の狙い。
だから、少し冷たそうに。
「なんで・・着信拒否なんて、したの?
私、何かした?」
「・・・・・・。」
「考えても解んないから・・お願い、教えて?」
忍足の狙い通り、は涙目で訴える。
自然と口端が釣り上がる。
しかしそれは、には見えていない。
涙で視界が滲んで、忍足の顔さえもぼやけている。
「教えてやるから、こっち来ぃや。」
目をこすりながら、籠の中の教科書を手に取り、
忍足の方へ足を進める。
玄関のドアの前まで来ると、忍足に手を引っ張られ家の中に入れられる。
「え、あ、あの?!」
「教科書、おおきに。窓から見とったで。
チャリ止めて、切れた息を整えて、前髪直して。
深呼吸してから呼び鈴押したの。」
を壁に押しつけて、ニヤリとする。
そんな状況にが平常心でいられるわけもなく、
顔を真っ赤にし、目を泳がせている。
それを見た忍足は、ククッと小さく声を漏らして笑い、
の足を割り、間に自分の足を入れる。
「きゃっ!!」
は瞬間的に声をあげ、手で足を押しのけようとするが、
それは忍足が許すはずもなく、逆に手の自由を奪われる結果となった。
それと同時に教科書が床に落ちる。
しかしお構いなしに、忍足はの耳元で囁くように言う。
「今日、おとんもおかんも・・おらんのやけど?」
***fin***
氷帝Illusion 様との相互祝いで送らせて頂いた夢です。
映画の「着信○り」に対抗して「着信拒否」(笑)
いや、嘘デス。
黒忍足というリクエストだったので、黒・・黒・・・着信拒否?(何故)
そんな訳で、結果。黒エロになってる。
最後の落ちはなんだ。エロじゃないか。
こんな忍足でも、許してくださいますか?(笑)
今回も関西弁に自信なしなので、変な所あったら教えて下さいm(_ _)m
ご感想お待ちしておりますvv
→黒蝶
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