「君でなければ」
「姉さん・・・竹は、花をつけるものだったのだな。」
「えっ・・・・・?」
乾燥しきった空気の道城の一室で、蓮が不意に潤に言った。
それは『竹の花』のことだった。
昨日蓮は、潤に頼まれ、竹やぶに入り竹を数本刈ってきた。
一体何に使うのかはわからなかったが、潤の頼みは何故か断れない蓮だった。
少しとんがりつつも、馬孫を使い一気に10本ほど切り倒した。
そして見たのだ。
───────『竹の花』を───────
「竹の花・・・・・ねぇ。蓮、竹が花をつける時って、どういう時か・・・知ってる?」
「?知らんな。どういう時なのだ?」
少し苦笑いしながら問い掛ける潤の顔が、蓮の中に『不安』を生み出した。
「竹は、ね・・・・・・・・・───────」
蓮は『竹の花』の意味を知り、胸の中に疾風が吹いた気がした。
そして、急に幼馴染ののことを思い出した。
なんだ・・・この胸騒ぎは・・・・・・・っ!
何故か、わからんが───────
あいつに・・・に会いたい。
会って、強く抱きしめてやりたい。
強く、強く。
壊れてしまいそうなくらいに。
そうでもしないと、『不安』に押しつぶされそうで・・・・・・・
───────────コワイ───────────
「でもそんなもの、滅多にないから・・・って、蓮っ?!」
蓮は潤の話が終わるより先に、その場を駆け出していた。
行き先はもちろん───────の家。
の家は、道城から白鳳ならば、30分ほどでいける距離に位置する。
蓮は「焦り」と「不安」で満ちた胸を抑え、の家へ急いだ。
約30分かけて着いたの家は、妙に静まり返っていた。
蓮の脳裏に不吉な予感がよぎる。
蓮は小さく舌打ちをした。
鼓動は早くなる一方。
眉を細め、眉間にしわが寄る。
蓮はを探した。
の部屋、リビング、台所、庭・・・・・・
家の隅々まで探したが、は見つからなかった。
蓮の中の何かが胸を絞めつける。
苦しくて、苦しくて・・・こんな気持ちは初めてだった。
姉さんから『竹の花』の意味を聞いた時、瞬時にの顔が浮かんだ。
最初はそれが何故か、わからなかった。
でも────────
気づいてしまった。
俺は・・・・・・・を愛している。
愛しているが故、こんな気持ちになるのだな・・・・・。
蓮は「ふっ」とため息を漏らし、その場に座り込んでしまった。
捜し疲れたのではない。
愛しい人が消えてしまったという、壮大なる絶望感に押しつぶされて、
立っていられなくなっただけ。
この頬を伝う滴は、哀しいからではない。
ただ・・・・・・・・・淋しいだけ。
オイテカナイデ
周りに他人が、しか居なかったから、
愛したわけじゃない。
でなければ、駄目なのだ。
手ヲ離サナイデ
一人ニシナイデ・・・・・
蓮は、奥歯を噛み締め、拳を握り締めていた。
「・・・・・・・・蓮?泣いて、いるの?」
「ッ?!!」
突然、聞きたかった声が後ろから降り注ぐ。
だ。
蓮は言葉を発するより先に、を強く抱きしめた。
「・・・・・・・・っ!!」
「えっ、ちょ・・・蓮?どうしたの・・・?」
動揺は見せるものの、抵抗が無いの態度が嬉しい。
そして、何より・・・・・・・・・・・・・・・
愛しい
「・・・・・・・・・・・・・・おい。」
「ふぇ?!な、何?」
「お前はいつも、俺の傍にいろ。」
「・・・・・・れ・・ん?」
「愛している、。」
は驚きの表情を隠す事は出来なかったが、
その後すぐに、可愛らしい笑顔を見せた。
「私も愛してる。ずっと・・・・・傍にいるから。」
二人は強く抱きしめ合い、その中で、もう離れる事は無いと誓ったのだった。
───────「竹は、ね・・・何か良くない事が起きる年に、美しい花を咲かすのよ。」───────
良くない事どころか、幸せを手に入れた二人が
蓮の見た花が、『竹の花』では無かった事に気づくのは、
もう少し、先の話・・・・・
***fin***
初蓮君単独ドリです。いかがでしたでしょうか・・・(汗)
竹の花は、本当に良くない事が起こる年に咲くらしいですよ。
関東大震災の時も、咲いたそうです。
私は見たことありませんが・・・・ι
最後まで読んでくださり、有難うございましたvv
→黒蝶
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