もうすぐあの人の誕生日。

いつも忙しそうなあの人は、
きっと自分の誕生日なんて忘れて走り回ってるんだろう。



今、何処にいますか?




「Happy birthday dear...」




私の前から姿を消したのは半年前。

突然のことだった。

突然すぎて私は状況が把握できなくて、
クローゼットを探した。

あの赤いコートが入っているはずだから。

でもいくら探しても私のコートしか見当たらなかった。





出掛ける時はいつも一緒だった。

手を差し出すから、その手を掴んで歩いた。



「なんで今日は手、繋いでくれないの?」


泣き出しそうな声で呟いた。

私の代わりに空が泣き出して、
それを唯、見つめてた。





雨の日。
いつもは自分は器用に髪を結わくくせに、
雨の日ばかりは私に結わいてとお願いする。

雨の日は機械鎧との接合部が酷く痛むらしい。

少し辛そうな顔で、猫みたいに甘えるから、
断れるわけがなく、結わいてあげる。

金髪の髪から仄かに香るシャンプーの甘い香り。

私の心まで甘くさせた。

だから雨は、好きだった。





半年前と同じようにシトシトと雨が降り出した。
空が、私を慰めるように泣き出した。


「ありがとう。」


心から言葉が零れた。





一体今どこにいるんだろう。

実家は焼いたと言っていた。

戻る家は此処しかないと笑った。



いつ、戻ってくるの?



あの人の笑顔が、優しさが、
どうやっても忘れられず、

今も私は此処に居る。


あの人が、此処しか戻る家はないと、

そう言ったから離れられない。


唇を噛んで涙を堪えた。

だって泣いたら、
代わりに泣いてる空に悪いから。

歪んだ顔と心のまま、キッチンへ向かった。



今日は誕生日だから。

あの人が生まれてきたことを祝う日だから。

例えあの人が居なくとも。

今日はお手製のシチューを作った。
食べるのは私1人なのに、大きな鍋で作った。

白いお皿と木のスプーンを出して、
準備は整ったのに。


なんでだろう。


急に手が動かなくなった。

いつの間にか大降りになっていた雨の音が、
やけに部屋に響いた。



コンコン。



雨と違う音が部屋に響く。

もう少し雨音に聞き入っていたかったのに。

エプロンを椅子に引っ掛けて玄関へ向かう。



「どちらさま?」



そう言いながら扉を開く。






ずぶ濡れの男。


ずぶ濡れの赤いコートの男。




ずぶ濡れの赤いコートの愛しい人・・・・・・・エドが立ってた。






「よっ元気にしてたか?」


嬉しさで頭が真っ白になった。

素直に可愛らしく「おかえり」と言えたらいいのに。




「いらっしゃい。久しぶりね。」




心とは裏腹に冷たいコトバ。


笑顔の1つも出やしない。




「こんな雨の中、何しにきたの?錆びるわよ。」




そんなコトバを吐くぐらいなら、
黙っていればいいのに。

エドは小さく苦笑いを零した。



「実は忘れ物をしたんだ。」

「忘れ物・・・・?」



エドが忘れていったもの・・

すぐには思い当たらずに部屋を見渡す。


目に入ったのはぎっしり詰まった本棚。




「あぁ、本。電話くれれば送ったのに・・」



そこまで言って、急に抱きしめられる。




半年ぶりの感覚。




雨に打たれて身体は冷たかった。





「何・・」


「ずっと後悔してた。黙って出てったこと。」





離れようとする私の力は、
エドの力には敵わなかった。




「電話したかったけど、声を聞いたら、
全て放り出して帰りたくなるからできなかった。


抱えてた問題がオレだけの問題じゃなくて、
そんな無責任なことできなくて・・」




少し震えているエドが可愛くて、抵抗をやめた。




「半年も待たせて、ゴメン。」




私を抱く力が強くなった。

私もエドの気持ちに応えてあげたくて、
そっと背中に手をまわし、抱き返す。






「お帰りなさい、エド。」






やっと伝えたい言葉が言えた。

堪えていた涙を、空と同じくらい流した。


エドは拭いきれない涙でぐちゃぐちゃな顔の私に、
キスをくれた。






「ただいま、。」





やっぱり忘れていた誕生日をシチューで祝った。

半年分を取り戻すかのように2人で笑った。




気付いたら、空も一緒に笑ってた。











***fin***




誕生日ネタ@
好きな人の誕生日は祝ってあげたいですよね。


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