隙間風が吹いた。
隙間なんて何処にもないのに。
だけど冷たくふき続けるのは
何故。
「gap-wind」
マスタング大佐とつきあい始めて約3ヶ月。
未だに敬語だし、名前で呼んだ事ないし、
デートも食事に行くくらい。
たいした進展も無いけど、私は幸せだった。
だって大佐は、ずっと私の憧れだったから。
「少尉っ、何ボーっとしているんだね。」
「っ大佐!や、は、えっと、あの・・・・・・ゴメンナサイι」
勤務時間中にボーっと考え事をしていたに、
後ろから話し掛けたのはロイ。
の反応に満足したようで、とても爽やかな笑顔だ(笑)
「ところで今日、空いてるか?」
声をひそめて問うロイ。
は少し考えてから「はい。」と答えた。
「では食事に行こう。デザートの美味しい店を見つけたのでね。」
再びにっこりと笑うロイ。
も自然に笑顔になる。
そして、とても嬉しそうに言う。
「喜んでっ」
定時・・──────────────
話では、ロイの仕事が早く片付きそうだから、
迎えに行くと言っていたが、は1時間は待つ覚悟をしていた。
ロイがそんなに早く終わらせられないだろう、と思ったからだ。
コーヒーでも飲みながら待っていようと、カップを持ち、
立ち上がったその時。
「少尉は居るか?」
思った以上に早く、というよりほぼ定時にロイが現れた。
本当に早く仕事が終わったようだ。
は慌ててカップをしまい、ロイに駆け寄る。
「お仕事、本当に早く終わったんですね。」
少し笑いながら言うから目を逸らすロイ。
もそれに気付いた。
「もしかして・・まだ終わってないんですか?」
不安そうに問うに、ロイが言いにくそうに答える。
「いや・・仕事はもう終わったんだが・・・その、
なんというか・・・・・・・急用、ができて・・だから・・・・・・」
そこまで聞けば、鈍感なにも察しがつく。
「つまり、お食事・・行けなくなっちゃったんですね?」
苦笑いをしながら言う。
ロイは申し訳無さそうに頷く。
「大丈夫ですよ。そんなに怒ってませんから。
急用じゃ、仕方ないですし、ね。」
優しく話し掛けるにホッとしたのか、
ロイはそっとを抱き寄せ、一言「すまない」と言って行ってしまった。
「大丈夫」とは言ったものの、
も、楽しみにしていたデートがなくなりがっかりしていた。
「はぁ。急用じゃ仕方ない、そう言ったのは私だけど・・・・。
・・・まだ時間も早いし、雑貨屋さんでものぞいてから帰ろっと。」
特に欲しい物はなかったが、そのまま帰るのでは、
少し淋しく思ったは雑貨屋に立寄る事にした。
が雑貨屋から出て来たのは約2時間後。
なんだかんだと色々見ていたら、日が沈みきっている。
「あーもぅこんな時間・・・。ちょっと長居しすぎたかなι」
そんなことを呟いていると、前方に見慣れた青い軍服が見えた。
知っている人かもしれないと近づいてみると、横顔が見えた。
その横顔は紛れもなく、ロイだった。
「え、大佐?急用って外だったのかな・・。」
取り敢えず声をかけようとした。
が、隣にはブロンドヘアーの女性が1人。
なにやらロイと話している。
暫くすると2人で何処かに歩いていってしまった。
それを追うなんてコト、には到底無理なことだった。
はただ呆然と立ち尽くし、何も考えることが出来なかった。
の頬を一筋の涙が伝い、地面に落ちる。
地面に落ちる涙は次第に増え、
だいぶ時間も過ぎた頃、はやっと自宅へ歩き出した。
自宅についてもの頬は涙で濡れていた。
枕に顔を埋め、声を必死に押し殺すように
静かには泣いていた。
大佐がモテるのは知ってた。
私の周りの同僚のほとんどが大佐に憧れてた。
その中には、私なんかよりずっとキレイな子もいた。
でも、大佐は私を選んだ。
それだけで嬉しくて。
1人で舞い上がってた。
本気なわけないのに。
「あの女の人、大佐よりちょっと年上っぽかったなぁ。
大人っぽくて、私とは正反対・・・・・。」
隙間風が吹いた。
隙間なんて何処にも無いのに。
隙間なんて何処にも無かったはずなのに・・・・
ヒビが、はいった。
これは硝子だから。
ヒビは元には戻らない。
するとそこに電話が鳴り響いた。
は涙を拭い、息を整えてから電話に出た。
「・・・・もしもし。」
『あ、ロイだが』
「・・・・・っ」
いきなりのロイからの電話に、動揺を隠し切れない。
言いたい事が山ほどあるのに、何から言っていいかわからず、
黙り込んでしまった。
『・・・?どうした?もしかしてもう寝てたのか?』
「・・・・・いえ、違います。」
なんとか答えられたものの、かなりの鼻声。
『?風邪でもひいたのか?
あ、今から家に行ってもいいかな。
伝えたいコトが、あるんだ。』
少し真剣なロイの声に不安が過ぎる。
伝えたいコト。
今日見てしまったことから察すると、やはり・・・
別れを、告げられるのではないか。
そう考えると、また涙が出てきてしまう。
でも、それならそれではっきりさせたいと思ったは、
「はい」とだけ返事をして、電話を切ってしまった。
するとすぐに家のベルが鳴る。
ピンポーン
小走りで玄関まで行き、穴を覗くとそこには
息を切らしたロイがいた。
「た、大佐?」
「実はもう家の近くまで来ていたんだ。
開けてくれないか?」
急いで開けると、ロイがいきなり抱きしめてきた。
少し抵抗のつもりでもがいてみるが、効果は無かった。
「おめでとうっ!!」
抱きしめながら、またもやいきなりロイが言う。
が、意味がわからず混乱していると、
ロイがなにやら紙を取り出しに見せた。
そこには”・”という名と、”昇進”という2文字が見えた。
がボーっとしていると、ロイが笑いながら言った。
「少尉から中尉に昇進だよ、。
おめでとう。」
「・・昇進・・・・・・私、が?」
「そう。それで、コレなんだが・・・」
そう言うとロイはスッとポケットから、小さな箱を取り出した。
「昇進祝いに」とに手渡す。
まだボーっとしているに「中身が気にならないのかい?」と笑いながら言うロイ。
は慌てて箱を開ける。
中に入っていたのはシンプルなシルバーリングだった。
早速取り出し、つけようとしたをロイが止める。
「私につけさせてくれ。」
はコクリと頷き、リングをロイに渡す。
ロイはの左手を取り、薬指にはめた。
はその左手を上にかざし、シルバー独特の光りを放つリングを見て、
「キレイ」と微笑んだ。
「気に入ってもらえたかな?」
「もちろんですっ」
満面の笑みで答えるを抱き寄せ口付けるロイ。
「似合ってるよ」
の耳元で言うと、を離ししゃがみ込む。
「よかったよ、気に入ってもらえて。
決めるの一苦労だったから。」
ははは、と笑うロイをは悲しそうな瞳で見つめる。
その視線に気付いたロイは、無言でを見つめ返す。
は頬を紅くし、瞳を逸らしてから言った。
「あの・・今日の急用って、何だったんですか・・・・?」
「え?」
「一緒に居た女の人って・・・誰なんですかっ・・?!」
声も身体も震わせて言ったの瞳には、
また涙が浮かんでいた。
ロイは立ち上がり、また優しくを抱き寄せる。
「あの女の人、気になる?」
「・・・・・・はい。」
すぐには答えず、焦らすロイにが痺れを切らしてもう一度問う。
「誰・・なんですか?」
真剣なに対し、ロイはクスクス笑いながら答えた。
「ジュエリーアドバイザーの人。」
「え?」
「の昇進発表が急に明日に決まってね。
が気に入るようなリングを見つける為に無理言って、
アドバイザーの人に同行してもらって、そのリングを買ってきたんだ。
どうしても、1番に祝いたくてね。」
はロイの答えに、ほっとしたような、拍子抜けしたような感じでいると、
ロイがニヤニヤしているのが見えた。
「何、笑ってるんですか・・・。」
「いや、もしかして・・ヤキモチやいてくれたのかなと思ってねvv」
「なっっ・・・・何か私1人だけくたびれ損してません?」
溜息をつくをロイは笑いつつも、ずっと優しく抱いていた。
少しの時間でも恋人を不安にさせたコト、
悩ませてしまったコト、
傷つけてしまったコト。
身体全部で謝っているように。
隙間風が吹いていた。
今はもう吹いていない。
ヒビは残ってる。
それは硝子だから。
その硝子を愛する人が包んでくれたから。
ヒビから入ってくるのは
もう冷たい風じゃない。
入ってくるのは
甘すぎる、愛情だけ。
***fin***
カナタちゃんとの交換で送った夢小説でした。
リクがロイ夢だったので書きやすかったけど、
話しまとめるのが大変だったι
こんなん押し付けてスミマセン(泣)
ご感想お待ちしておりますvv
→黒蝶
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