ねぇ、蓮。
私の夢、知ってる?
私の夢はね、蓮がいなくちゃ叶わないんだ。
いつか打ち明けられる日が
来るのかな。
「夢が叶う時」
月は半分。
青白く輝き、星もまばらな夜。
夕食を終え、が洗う、食器と食器が擦れ合う音だけが聞こえる。
「、確か明日、試合が入ってたな?」
風呂から上がり、牛乳ビンを片手に蓮が話しかける。
は手を止めずに答えた。
「あぁー、うん。」
受け流す程度の返事。
仮にも生と死をかけたシャーマンファイトだというのに。
「相手は誰だ?」
修行三昧の蓮は、の次の対戦相手を知らなかった。
もそれほど弱くなく、寧ろ強い方で、
並の相手なら余裕で勝てる腕のシャーマン。
蓮はに負けてられないと、修行に励んでいたからだ。
「ん───・・・・。」
やはり手を止めずに、適当に答える。
・・・答えになっていないが。
あまり緊張感が伺えない態度は、
ゆるい誰かさんを思わせ、蓮は小さく溜息をついた。
するとが思い出したかのように「あっ」と漏らす。
溜息と同時に床に落とした視線をに戻す蓮。
やっとは食器を洗う手を止め、蓮の方へ向き直る。
「あのね、明日の試合は・・絶対見に来て欲しいの。」
「相手が誰かも覚えてないのに、か?」
蓮は微笑しつつ言った。
はただ、にこっと笑った。
それが最後の会話だった──────────────
次の日の朝、蓮は早く起きたつもりだったが、すでにそこにの姿はなく、
テーブルの上の料理の脇に、さり気なく置かれていた紙切れを見つける。
文字は半分も書かれて無く、まさにメモといった程度。
『出かける前に食べてください。
あと、牛乳は賞味期限の古いものから!
それじゃ、先に行きます。
試合、絶対来てね。
』
書かれていた通り、賞味期限の古い牛乳を冷蔵から選び、一気に飲み干す。
少し冷めかけている料理も、素早くたいらげた。
いつもの通り、ホロホロとチョコラブと修行をした後、
の試合に間に合うよう会場へ向かう。
会場にはすでに葉達が居た。
最前列のイスにどかっと座る蓮。
すると、葉がチラチラ横目で蓮を見ているのが解った。
「・・・なんだ、葉。言いたいことがあるなら言え。」
葉はドキッと一瞬動きを止める。
一度アンナを見てみるが、アンナは無視。
視線を蓮に戻し、口を開いた。
「蓮、お前、今日のの対戦相手・・知らないのか?」
「・・・知らん。昨日、に聞いてみたが忘れたようだった。
それくらいの奴なんだろうが、一応聞いておこう。
誰なんだ、今日の相手は。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・今日の、相手は───────」
俺はバカだ。
葉が相手の名を言った直後、そいつは現れた。
でかい五大精霊のうちの1体に乗りながら。
俺はバカだ・・・
次にが反対の門から登場した。
場内に響き渡る歓声が、
ラジムのマイクパフォーマンスが、
心配の眼差しで俺とを交互に見る仲間の視線が、
うざったい。
は場内を見渡し、すぐ蓮を見つけることができた。
目を合わせながら、は笑った。
「僕との対戦を目の前にして笑うなんて、余裕だね?
もう覚悟が出来てるってことかな。」
ハオが嫌みっぽく言う。
目は、笑っていなかったが。
は、視線をハオに向け、
至って柔らかい口調で答えた。
「あんたは幸せね。」
「?」
「私の夢が・・・・叶うとこが見れて。」
また、笑った。
ハオと何を話している?
・・・もう十分だろ。
棄権してくれ・・・
こんなとこで死んだって意味なんてない。
無駄死にだ。
俺にはまだ、お前が必要なんだ。
頼む、死ぬな・・───────
「クソッ・・・・」
「蓮っ!」
の元に飛び降りていこうとする蓮を葉が止める。
気付くと、ホロホロやチョコラブも腕を押さえている。
「っ止めるな!」
振り払おうとするが、さらに竜やファウストまで止めに入る。
「が・・・・今止めなければ、はっ・・・・・」
蓮は今まで見せたことのない、
恐怖や悲しみの入り交じった、複雑な表情を見せた。
「これはが決めたことなんよ。
ハオと正々堂々戦う。
例え結果が・・・・解りきっていても。」
葉が俯きながら言う。
他の者も自然と顔が下に向いた。
「ちゃんと見てやんなさい。
の、愛しい者の最期を。」
アンナが発すると同時に試合が始まった。
試合は一瞬だった。
の肉体が滅び、魂だけになったとき、
確かに聞こえた。
『アリガトウ、蓮。』
その後、すぐ魂も・・・・・滅んだ。
それから暫くの出来事は覚えていない。
が、一筋の雫が
頬を流れたのは、覚えている。
なんでちゃんとの対戦相手をチェックしなかった。
なんでもっと飯を味わって食べなかった。
なんでもっと・・・・話しておかなかった・・・・・・・・。
何に安心をしてた?
の強さに?
の笑顔に?
部屋に戻ると、の匂いがした。
「っく・・・・しょぉぉぉぉお!!」
感情のままテーブルを蹴飛ばす。
すると、朝読んで置きっぱなしだった紙切れが、
ひらり、宙を舞った。
朝見た時より文字が増えている気がして、
床に落ちた紙切れを拾い上げる。
よく見ると、裏にも文字が書かれていた。
『そういえば前、お互いの夢の話したの、覚えてる?
私の夢、まだ教えてなかったから、
ここに書いとくね。
私の夢は・・・───────』
が試合の前に見せた笑顔の意味、
この試合は絶対見に来て欲しいと言った理由、
最期の、言葉・・・・・・
全てが解った。
前日に対戦相手の名を忘れていたのではなく、
あえて言わなかった。
言えば俺に止められるのが、目に見えていたから。
お前のその優しさも、
生き様も、
愛も、
決して忘れない。
亡骸も魂も、残りはしなかったが、
死して尚も、お前の存在感は強いんだな。
『アリガトウ』と言うべきは、俺の方だ。
「ありがとう、。愛してる・・・」
さよならは、言わないがな。
『私の夢は、
蓮に私の最期を看取ってもらうことなの。
だから蓮がいなくちゃ、叶わないんだ。
きっと、その夢はもうすぐ叶うと思う。
蓮が来てくれればね。
1人のシャーマンとして戦って、
先に逝こうとする私を許して。
今までアリガトウ。
大好き。』
***fin***
伍万HIT御礼企画、柏 蝶蝉様からのリクでした☆
初、死ネタ。
やってしまった。リクが悲恋だったので・・・。
実はかなりの渾身の一作なんですが。
如何でしたでしょうか。
ご感想お待ちしておりますvv
→黒蝶
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